電気療法の動向

2014.12.21

体外から生体内の組織は電気刺激を伝えることによって、運動神経が興奮して筋収縮したり、感覚神経の閾値が上昇して疼痛緩和につながることは以前より知られている。このような電気刺激によって生じる生体反応を、疾病の治療や症状の改善に利用したものが電気療法である。

 

電気療法は、19世紀半ばに麻痺筋に対する治療法として開発された。その後、疼痛の緩解を目的とした経皮的電気神経刺激や動作獲得を目的とした機能的電気刺激、筋力強化を目的とした治療的電気刺激などの方法が開発され、電気療法は様々な目的で活用されるようになってきた。特に、電気的筋刺激法(electrical muscle stimulation: EMS)は、強い筋収縮を引き起こす方法として、ダイエットや健康増進を目的に普及しており、医療の分野にとどまらず、スポーツクラブなどのヘルスプロモーションの分野などあらゆる領域に導入されている。このようにEMSが普及した背景には、電気療法に用いる治療機器の機能や性能が飛躍的に進歩したことがあげられる。

 

これまでの低周波を中心とした電気療法では、“皮膚の電気抵抗”という壁に阻まれ、その効果も限定的であった。つまり、電気の出力を高めれば皮膚の電気抵抗も上昇し、疼痛や不快感を生じ、火傷の原因となってしまうことが問題であった。また電極導子も粘着タイプ(粘着パッド導子)と吸着タイプの2種類しかなかったため、体幹や大腿部など比較的広範囲な部位にしか使用できず、適用範囲は限られていた。

 

“皮膚の電気抵抗”に影響を及ぼす要因としては、電気の波形における周波数があげられる。周波数は一般的に低周波(1~1,000 Hz)、中周波(1,000~10,000 Hz)、高周波(10,000 Hz以上)とおおむね3つに分類される。周波数が20 Hzの場合、皮膚抵抗値が34,000キロオームであるのに対して、周波数が100倍の2,000 Hzの場合、皮膚抵抗値は約1/30の1,111キロオームにまで低下する。さらに、20,000 Hzでは1/300の110キロオームとなる。このように、周波数と皮膚抵抗の関係は逆比例となっており、高い周波数では皮膚抵抗が低下し、低い周波数では皮膚抵抗が上昇する。このため低周波では、皮膚の電気抵抗が高まり、疼痛や火傷の発生につながってしまっていた。

 

しかし1990年代に入り、わが国では中周波治療器が広く普及してきた。中周波治療器は、これまでの低周波治療器と比較して、“皮膚の電気抵抗”の影響を受けにくく、強い出力を通電することが可能である。この特性を利用して中周波と低周波を組み合わせた波形をもつ電気刺激が開発されている。パルス幅変調方式を採用して複数波形の群周波数から構成されているエムキューブ波という最近開発された中周波波形もその一つである。このように、中周波波形を利用することによって、“皮膚の電気抵抗”の影響を最小限に抑えて、電気刺激による筋力強化や筋持久力改善などの効果も期待できるようになった。

 

また電極導子の問題も解決されてきている。これまでの電極導子は、粘着タイプ(粘着パッド導子)と吸着タイプの2種類しかなく、目的とする治療部位に貼ったまま通電することが一般的であった。電極導子にはプラス極とマイナス極の2極があり、この間に電気を流すことから、“皮膚の電気抵抗”は電極の貼付方法の影響を強く受ける。このため皮膚の電気抵抗を減少させるためには、①2つの電極間の距離を短くして貼付する、②電極の接触面積を大きくする、③電極と皮膚の密着性を高めるという点を考慮する必要がある。

 

電極の刺激法として、一般的に単電極刺激法は、運動点(モーターポイント)あるいは治療部位上に面積の小さな治療電極(関電極)を置き、もう一方は面積の大きな分散電極(不関電極)を置く方法であり、双電極刺激法は、電極面積が同じものを用いて、運動点や治療部位をはさむように貼付する方法である。いずれの方法も、皮膚表面から運動点(モーターポイント)の距離が近い部分に電極を貼付したほうが、弱い電気出力でも筋収縮は生じやすいことから、電極の貼付部分に配慮する必要があった。しかしながら、中周波を利用した電気治療器の導入により“皮膚の電気抵抗”が減少されることによって、電極導子の距離を短くする必要もなくなった。

 

また電極そのものの開発も進んでいる。たとえば、美容の分野において、顔などの複雑な形状の部位でも通電しやすく、皮膚との接触面を簡単に調整できるグローブ電極が登場した。この電極は、グローブ銀糸を編みこみ、手袋全体を電極にしたものであり、通電しながら簡単に部位を変更することができる。さらに電極グローブで強く握る(押しつける)ことにより、皮膚から筋までの距離が短くなり、皮膚の電気抵抗がより低下するといった利点もある。このようにグローブ電極を使用することによって、“皮膚の電気抵抗”という問題をも解消することができるようになってきた。

 

以上のように、“皮膚の電気抵抗”と、“電極導子の限界”という問題を乗り越えて、電気治療の新たな可能性が広がってきたと言える。

 

 

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